サハラ砂漠には、かつては西アフリカとヨーロッパを結ぶ古い交易路として、さまざまな品物が行き交っていました。その中心は、西アフリカの金と地中海の塩との交易(金-塩交易)で、塩が同じ重さの金や奴隷と交換されたといいます。その交易路の途中にあるタウデニでは、海から離れた砂漠の真ん中で塩が採れます。約2億年前に干上がった塩湖が水平な岩塩層となって埋もれているのです。

タウデニの平らな地表を3mほど掘り下げると、岩塩の床に突き当たります。厚さ20cmほどの岩塩層に切れ目を入れて剥ぎ取った後、不純物を含む層を斧で削り取って、厚さ4〜5cm、大きさ120×40 cm、重さ30〜40kgほどの板状に整形します。こうしてできた岩塩の板は、サハラ交易が衰退した今もかつての交易路を経て、13世紀から16世紀にサハラ交易の拠点として栄えた町トンブクトゥまで運ばれ、周辺の内陸の町の需要を満たします。

タウデニの塩を運ぶラクダのキャラバンはアザライと呼ばれ、アラブ系遊牧民が従事しています。往復1,500km、計40日におよぶ砂漠越えのキャラバンは、一歩間違えれば命に関わる過酷な行程です。トンブクトゥから約20日の砂漠の旅でタウデニに着き、ラクダの背に岩塩の板を括りつけ、再び約20日かけて砂漠を越えてトンブクトゥに戻ります。トンブクトゥの近くで塩商人に売られた岩塩の代金のうち4分の3は命がけで塩を運んだキャラバン隊、残り4分の1がタウデニの岩塩労働者の取り分になります。今なお続くこのキャラバンは、塩が、命をかけてでも運ばなければならない大切な必需品であることを思い出させてくれます。

たばこと塩の博物館 主任学芸員 高梨浩樹

(写真提供:たばこと塩の博物館)

 

参考文献:『たばこと塩の博物館 常設展示ガイドブック』、『塩 地球からの贈り物』片平 孝

 

(塩と暮らしを結ぶ運動推進協議会事務局より)塩と暮らしを結ぶ運動の賛助会員であるたばこと塩の博物館(東京都墨田区)には、タウデニで切り出された岩塩の板が展示されており、隣のパソコンモニタでは各地の塩交易や塩の道についての情報が引き出せます。

ホームへ戻る