9世紀から15世紀にかけて、現在のカンボジアを支配していたアンコール王朝は、最盛期の12世紀にアンコール・ワットやアンコール・トムを造営したことで有名です。しかし、アンコール期のカンボジアには紙がなく、代わりにオウギヤシの葉でつくられた「貝葉」が記録に使われていましたが、虫に喰われたり焼失したため、碑文資料のほかには現地の文字記録が残っておらず、その歴史の実態にはまだ分からないところも多いようです。

このため、周辺諸国について記載されている中国の文献資料が、カンボジアの歴史の解明に役立ってきました。その一つに、13世紀末に、当時中国を支配していたモンゴル(元朝)の成宗(テムル)の使節に随行してカンボジアを訪れた周達観の『真臘風土記』があります(「真臘(しんろう)」はカンボジアの中国式呼称)。

現在のカンボジアでは、主に、海水を天日により結晶化する方法で塩がつくられているようです。一方、周達観によると、当時のカンボジアでは、海岸部では海水を煮つめて塩をつくっていたほか、山間には岩塩もありました。岩塩は「みがくことによって器をつくることができる」とあり、食用のほか、食器としても使われていたのでしょうか。

また周達観は、当時の中国では厳しく禁じられていた塩の「私造」(私的につくること)が禁止されていないことに驚いているようです。一方、碑文資料によると、アンコール王朝下のカンボジアには「塩の長」がいて塩に税金を課していました。「私造」の塩にも税金が課せられていたのかはよく分かりませんが、塩づくりが全くの自由放任だったというわけではなさそうです。

 

参考文献:『東南アジア 多文明世界の発見』石澤良昭、『真臘風土記』周達観、和田久徳訳注、“Salt:Global Industry, Markets and Outlook to 2015, 15h Edition”

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