19世紀にグリム兄弟が編さんしたドイツの民話集『グリム童話』には、「泉のそばのがちょう番の女」という話があります。

3人の娘をもつ王様が、自分に対する愛情の一番深い娘に最も良いものを遺そうと、どのくらい自分のことを愛しているのかと尋ねます。長女は「甘い砂糖と同じくらい」、次女は「自分の一番きれいな着物と同じくらい」と答えますが、三女は「料理に欠かせない塩と同じくらい」と答えます。

王様は三女の答えに怒って、塩を一袋背負わせて追い出してしまいます。三女は、真珠の涙を流しながら王様のもとを去り、森の泉のそばに住むがちょう番の老婆のもとで、醜い姿に変えられて暮らすことになります。後悔した王様は娘を探しますが、見つけることはできませんでした。

3年後、森を通りかかった若い伯爵が老婆と出会い、荷物を運んだお礼として真珠の入った箱を貰います。その後、王様のもとを訪れた伯爵がこの箱を献上したところ、中の真珠を見た王妃は、三女の流した涙の真珠であることに気付き、伯爵に、三女がいなくなった経緯を話して聞かせます。

そして、伯爵は、王様と王妃と三人で三女を探しに行きました。三人は森で老婆と出会い、もとの姿に戻った三女を返してもらうことができ、その後は皆が幸せに暮らしました、というお話です。

塩は、目立たなくても暮らしに欠かせない大切なものであると考えられていたことが伺えます。

 

参考文献:『完訳 グリム童話集(五)』金田鬼一訳

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