第2回 エチオピアの造幣局と呼ばれたアサール湖の塩

水や空気と同じように人の生活に欠かすことのできない塩は、人類にとって地球からの素晴らしい贈り物。人々はこの地球の塩を得るために危険を冒し、様々な方法で手に入れてきた。

東アフリカのエチオピア北東部に気温が50度を超えてしまう灼熱砂漠ダナキル凹地がある。砂漠の北端は、幅約70㎞にわたり塩の大平原が広がるアサール塩湖の干上がった大地で、1,000mもの厚さに塩を堆積させた平坦な塩原がどこまでもつづいている。ここは海底の隆起で隔てられた昔の紅海の入江だったところ。そのため膨大な塩の堆積ができたのである。

アサール湖は一年の大半、湖の中央部だけ残して再結晶した塩で覆われている。ダナキル砂漠の極限大地で暮らすアファール族は、塩の割れ目に棒をさして、コンクリートのように硬く結晶した板状の塩をはがしとって暮らしている。

アサール塩湖の干上がった塩の割れ目に棒をさして塩のかたまりをはがしている。

 

かつてイギリスの総領事から「エチオピアの造幣局」とまで呼ばれたアサール湖の塩。エチオピア高原の農村地帯では、なくてはならない貴重で高価な物だけに貨幣としても使われている。まさに、アサール湖の塩の大地はアファール族の金庫。彼らの生活のすべてをまかなってくれるものといえた。

干上がった湖では、一面塩の板が並べられている。次から次とやってくるキャラバンに売りわたすために、地面からはがした塩の板を30㎝×40㎝ほどの大きさに切りそろえ、両面の汚れを削り落として塩のブロックをつくっている。塩の板1枚8ブル(4円)。1人当たり約1,000円の日収は、ここではかなりよい稼ぎになる。

塩のキャラバンに渡す塩のブロックをつくるアファール族。2人で1日約500枚。2,000円の稼ぎになる。

 

ラクダ1頭当たり約200㎏の重さの塩を積んだキャラバンは、海抜マイナス120mのアサール湖から57㎞離れたアビシニア高原に向かう。かつてキャラバンは標高2,000mを超えるマカレ市の市場に1週間かけて塩を運んでいた。現在は塩の中継地だったベラヒレの町まで運び、そこから舗装されたハイウエーをトラックでマカレに送られている。塩の値段はアファール族が手にした金額の6倍以上になっていた。

海抜マイナス120mのアサール塩湖からベラヒレの町目指して、塩を積んだラクダのキャラバンが行く。ラクダ1頭当たり30枚の塩の板が積まれている。約200㎏の重さ。

 

片平 孝(写真家)

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