第3回 入江が閉ざされて塩の湖になったレトバ湖(セネガル)

西アフリカ、セネガル共和国の首都ダカールから大西洋岸をヴェルデ岬目指して北東に車で走ること30km、ラック・ローゼと呼ばれる湖がある。フランス語でバラ色の湖。正式名はレトバ湖で赤い水をたたえた約3㎢の塩湖だ。ここはかつて海水に満たされた入江だったが、土砂の堆積で海への出口を閉ざされた上に、大干ばつなどで水位が下がり塩の湖に変わってしまった。

湖畔近くのバンガローで朝を迎えた。やぶ蚊にボコボコ刺されただるい体を引きずって、湖を見下ろす昔の岸辺に立つ。貝殻で覆われた砂の斜面が湖水まで、300mあまり続くあたりは昔の入江の底だ。

水深約3mの湖は乾期が始まる3月、2m以下になって塩の採集が最盛期を迎えていた。あめ色の湖に舟を出してもらうと、首まで浸かって、湖底に堆積した塩を引き上げる男たちがいた。湖に刺した棒につかまり、紐をつけたザルを沈めて足で塩をかき集めて、一気に舟に引っ張り上げる作業は大変そのもの。塩の入ったザルを持ち上げては勢いよく舟にぶちまけた。容赦なく滴り落ちる塩水で、白いペンキをかぶったように結晶した塩が顔にこびりつく。カメラのファインダー越しに目が合うと、一瞬たじろいでしまう程の凄さを感じた。塩分濃度30%を超える水の中で作業する男たちは、肌を保護するためにアカテツ科の双子葉植物シアーバターノキからつくるシアバターを塗っている。

足でかき集めた塩を勢いよく舟にぶち上げるウォロフ族。ザルから滴り落ちる塩水で、顔中結晶した塩がこびりついている。

 

午後、今にも沈みそうなくらい塩を積んだ舟が岸に戻ってきた。4・5時間、首まで浸かって足でかき集めてきた塩だ。全身塩を結晶させて岸に上がってきたダイバーたちは、開口一番「1ℓの水から300gの塩が採れる」と自慢げに話す。

海水の10倍を超える塩分濃度の湖は、乾期の終わる5月になると水深は1mを切って、更に濃度を上げてドナリエラ・サリナという好塩性の藻が大繁殖する。まだ見たことないがイチゴミルクを流したようなすごい色に覆われるという。これが別名「ラック・ローゼ」といわれるゆえんである。

レトバ湖では大干ばつで生計を支えていた海の幸は死に絶えてしまったが、代わりに近隣諸国に輸出できる塩が採れるようになった。同時にアフリカ中から労働者が集まり、塩の荷揚げや袋詰め、トラックでの輸送など塩の生産に関わる新しい産業が生まれて、労働人口が増加している。

舟からおろされる塩を女たちが岸辺に運んでくる。野積みにした塩は白く乾燥すると50 kg詰めの袋に詰めて出荷される。塩の山の脇に出荷を待つ塩の袋が並んでいる。

片平 孝(写真家)

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