第4回 都会の空き地にできた塩田(モーリタニア)

アフリカ北西部にイスラム国家モーリタニアがある。サハラの流砂が大西洋岸まで押し寄せるこの国は、全土がサハラ砂漠に位置して地球温暖化による干ばつ、海面上昇、砂漠化などの気候変動が、人々に先の見えない未来を投げかけている。

モーリタニアは日本では知る人ぞ知る国だが、タコの輸入量は、なんと3分の1がモーリタニア産を占めるほど漁業では知名度が高い。この国ではタコを食べないが獲った分だけ収入になるので、乱獲が進み年々漁獲量が減っている。

砂漠の不毛な大地とは裏腹にモーリタニアの海に世界中から漁船が集結する。モーリタニアの沿岸は水産資源が豊富で、世界でも豊かな漁場の一つになっている。近年、中国の漁業活動が活発になり水産加工工場の建設と引き換えに、モーリタニア水域での漁業権獲得に力を注いでいるのが大変気になるところである。

首都はノアクショット。1960年の独立後にできた新しい町だ。涼しい海風の吹く大西洋岸に面しているが、町の一歩外は流砂が押し寄せ、その直ぐ向こうには、移動する砂丘が津波のように迫っている。

21世紀のミレニアムを境に経済がよくなり、遊牧テントで生活していた人々が、便利な都市に押し寄せて家を建て始めた。そのため近郊にあった塩田は埋め立てられて新興住宅地とゴミ捨て場に姿を変えてしまった。

タクシーを走らせながら偶然に見つけた塩田があった。塩に興味のない人には、ただの水のたまったゴミ捨て場にしか見えないが、空き地に盛った塩の小山が目に留まった。どろんこ遊びのような土で仕切った大小の結晶池は、海水を入れてそのまま塩を結晶させているので不純物が多い。それでも大部分食用に使うことができそうだ。道路わきにある事務所の管理人に話を聞くと、大半はラクダに食わせるが、きれいな塩は食塩と魚の加工に使われるという。

泥で仕切った大小の結晶池に汲んできた海水が入れてある。右奥には収穫した塩の小山も見える。

 

塩を結晶させた池で作業している初老の男がいた。結晶した塩の層を細かく砕いて水に戻しフレーク状にした塩をゴミ捨て場にあった段ボールを板代わりにして集めている。採塩の道具は、一切いらないようだ。すぐそばまで押し寄せる住宅開発の波と砂丘が動き出してこの塩田を飲み込んでしまうのは、どちらも、そう遠くないように思えた。

結晶した塩を段ボールの板でかき集めている。塩田の向こうには新興の住宅地が迫っている。

片平 孝(写真家)

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