くらしお古今東西

山形県と塩

内陸部では、江戸時代に米沢の小野川などで塩泉を利用した塩づくりが行われたという記録があります。小野川では、塩泉を砂に撒いて乾燥させ濃いかん水をつくるという塩田法と同様の方法がとられていました。

また庄内地方の海岸では、明治期に枝条架や海水を直接煮つめる方法による塩づくりが試みられたことがあります。

塩にまつわる習俗

初市での塩

山形県山形市十日町では、毎年1月10日に初市が開催される。この初市の起源は、最上義光が支配していたころ(1600年前後)といわれる。山形には定期市が立つ市日町があり、それらの市の中心として十日町に「市神(いちがみ)」が祀られていたという。市神祭りとして十日町から七日町にかけて多くの露店が立ち並び縁起物をはじめ様々なものを売るようになったのが始まりといわれる。

十日町の初市は、江戸時代から続く伝統行事で、商業の株を象徴しての「蕪(かぶ)」、長寿を表す「白髭(あさつき)」などの野菜、初あめ、だんご木などの縁起物や、臼、杵、まな板などの家庭用品等、約250軒の露店が立ち並ぶ。

18世紀後半ごろの初市では、白髭が売られ、石神(市神)に投げ銭をしている。そして、大きな器に塩を盛り上げて、初塩が売られていた。そして、この塩を年神に献上している。山形という地域性からも塩は貴重であり、また塩のお清めの性格からも年神に献上するために使われた。

こうした初市のときに塩が買われる風習は、この山形市十日町だけでなく、東北地方の各地にあったようだ。たとえば、下北半島大畑町(青森県むつ市)でも1月11日の初市で、塩・針・飴を買う風習があった。また、秋田県大館市では1月12日(現在は、2月の第2土・日曜日)にアメッコ市が立つ。この日に飴を食べないとウジ虫になるか風邪をひくという言い伝えがあるそうだが、かつては、飴は塩と共に神様に供え、食べるときも塩をつけて食べたとのことである。市内では子供たちが少量の塩を紙で包んで、町の一軒一軒をたずね、それを置いて、お金をもらって歩いたという。こういうときには、「祝いの塩コ、なめれば砂糖コ」とか「アメコに塩コ、なめれば福の神」と歌い、町を触れて歩いたという。

また、福島県会津地方では、年の初めに各地に市が立つ(初市)。会津若松市の十日市、喜多方市の小田付市、小荒井市などはその代表である。初市には市神が祀られ、市に来た人びとはここにお参りする。初市はマチの人とムラの人が交流する場でもあった。会津若松市の十日市では、この市神で、小さな藁つとに包まれた市塩を買い求め、家に持ち帰って竃や囲炉裏などを清める習俗があった。

飴とのかかわりで言えば、甘味を刺激するために塩があった方が良かったともいえなくもないが、初市という性格からも神聖なお清めの意味を込めて塩が求められたのではなかろうか。

落合 功(青山学院大学経済学部教授)

参考文献:『飴と飴売りの文化史』牛嶋英俊

 

豆腐に塩

西村山郡河北町は、最上川の上流に位置する。穀倉地帯であるのみならず、江戸時代は紅花、現在はサクランボの産地として知られている。紅花は京都に運ばれたため、京都の文化が伝わり、三月の雛祭りは盛大なものとなる。

この地の葬儀の様子を紹介しよう。昔ほど仕来りに厳しいわけではないが、家族の一人が死去すると、しばらくの間、遺体を寝かしておき、火葬の前日に納棺の儀式が行なわれる。地元では、納棺のことを「ニッカン」と呼ぶが、納棺の訛りなのだろうか。このときは、集まった人々が遺体を丁寧にふき、死に装束を着させると共に、日ごろから愛着のあった帽子やカバンや杖なども棺桶に入れるようにする。そして蓋をして、この儀式は終わる。その日は、御通夜で棺桶の側で一日お守りし、翌日、火葬、告別式が執り行われる。

さて、この間の食事だが、肉や魚などは忌み嫌い、もっぱら精進料理である。とりわけ「ニッカンの儀」は夕方以降に行われ、そのあと参列者と共に食事をする。このとき、まず最初に口にするのが、豆腐と塩と酒である。このとき、豆腐に醤油をかけてはならない。これはお浄めの意味もあるようだ。いつから始まったかは不明だが、今も固く守られている風習である。

落合 功

塩にまつわる人物

榊原重兵衛・黒川隆恭
山形の士族。小野友五郎が千葉県の松ヶ島(現市原市)で操業していた枝条架による塩づくりを学び、明治12(1879)年、念珠関村(現鶴岡市)に同様の塩づくりの施設をつくりました。

参考文献:『大日本塩業全書 第二編』、『日本塩業体系 近代(稿)』

塩にまつわる祭事

沢庵禅師供養祭

山形県上山市では、“たくあん漬け”の創案者ともいわれている沢庵禅師の遺徳を偲ぶべく、毎年、沢庵禅師の庵・春雨庵で沢庵禅師供養祭が行われています。供養祭では昔ながらの方法でたくあんを漬け込む漬け込み式のほか、大根輪投げ大会や湯漬け沢庵の試食、山形県産沢庵漬けの販売なども行われます。

塩と暮らしを結ぶ運動推進協議会会員

全国塩元売協会会員

ホームへ戻る